【♂1 ♀1】青春もの

   

SE:窓をノックする音

1 雫「うぅん…… こんな時間になぁにぃ…… ってヒロシ!」

2 ヒロシ「しーっ!」

3 雫「しーって…… ここ二階だよ? いったいどこから……」

4 ヒロシ「おばさんたちを起こしちゃ悪いと思って…… この木、結構丈夫なんだよ」

5 雫「また無茶して…… 怪我したらどうするのよ……」

6 ヒロシ「それはいいから、雫…… 僕と一緒に来て欲しいんだ」

7 雫「一緒に……って、まだ夜中の三時だよ? こんな時間にいったいどこへ……」

8 ヒロシ「いいから。先降りてるから、準備が出来たら降りてきて。上着と、あと動きやすい靴で着てね。よっ…… うわわっ!」

SE:ガサガサッという音

9 雫「キャッ! ちょっと! 大丈夫ー?」

10 ヒロシ「だいじょうぶー! 早くねー!」

11 雫「まったく…… 勝手なんだから…… はぁ…… なんであんなの好きになっちゃったんだろ私……」

 

 

SE:静かに扉をあける音

12 ヒロシ「遅いよ……」

13 雫「遅いって、あんたねぇ! 女の子の支度には時間が……! もがっ…… もがもが……」

14 ヒロシ「しーっ。あんま大きな声出すなって…… いい? わかった……?」

15 雫「(コクコク) ……ぷはぁ。……で、どこ行くの?」

16 ヒロシ「ついてきてくれればわかるよ。付いて来て」

 

 

SE:虫のなき声

 

17 ヒロシ「暗いから、足元気をつけて」

18 雫「はぁ…… はぁ…… まだ付かないの? もうだいぶ歩いたよ」

19 ヒロシ「もうすぐのはずなんだけどなぁ…… っと! あぶない。大丈夫? はい」

20 雫「……何?」

21 ヒロシ「何って、手だよ手。やっぱ危ないし、繋ごうよ」

22 雫「嫌よ。歩きにく…… うわぁ!?」

23 ヒロシ「おっと! だから危ないって…… はい」

24 雫「……ん」

25 ヒロシ「もう少しだからね。頑張って」

26 雫「うん」

 

 

27 ヒロシ「ほら、着いたよ」

28 雫「なによ…… 何も無いじゃない……」

29 ヒロシ「ほら、あそこ。あそこを見てて……」

30 雫「うん……」

31 ヒロシ「そろそろだよ…… ほら!」

32 雫「うわぁ……! 綺麗……」

33 ヒロシ「この間、友達とキャンプに来たとき見つけたんだ。雫にどうしても今日この景色が見せたくて」

34 雫「うん……」

35 ヒロシ「あとね…… 雫に、どうしても言わなきゃいけないことがあるんだ……」

36 雫「……何?」

37 ヒロシ「僕…… 卒業したら、東京の専門学校に行こうと思うんだ」

38 雫「え……」

39 ヒロシ「うちのオヤジも、もう若く無いし。将来は、俺があの工場を次いで楽させてやろうと思って。だけど…… このへんの町も子供の数が減ってるから、オヤジの卒業した学校は、もう廃校しちゃってるんだって」

40 雫「そう……」

41 ヒロシ「だから、都会に出ないといけないんだけど…… 丁度このあいだ、オヤジのところに昔の仲間がきて、とある専門学校の講師をやっているみたいなんだけど、息子さんうちの学校に入れてみないか~って、そう言ってくれたみたいなんだ」

42 雫「……」

43 ヒロシ「俺…… 挑戦してみたい! そんで、一回り大きくなって帰ってきたいんだ! でも……」

44 雫「……」

45 ヒロシ「でも…… そうなると、最低でも三年は帰ってこれないと思う」

46 雫「三年……」

47 ヒロシ「ううん。もしかしたらもっとかもしれないだから……」

48 雫「やだ……」

49 ヒロシ「……え?」

50 雫「やだ…… やだやだ! 聞きたくないよ! そんな事言うためにわざわざこんな時間にこんなところにつれてきたわけ!? 馬鹿じゃないの!?」

51 ヒロシ「いや…… だから!」

52 雫「絶対に別れないからね! 何年でも、何十年でも、たとえ重いって思われても待ってやるんだから! 見くびらないでよ! 私がたった三年も待てない女だと思ってるわけ!?」

53 ヒロシ「違うんだ! 聞いてよ…… ね?」

54 雫「……うん」

55 ヒロシ「三年は帰って来られないと思う…… けど、僕は雫と離れたくないんだ。だから……」

56 雫「……」

57 ヒロシ「僕と一緒に来て欲しい」

58 雫「え……」

59 ヒロシ「僕がいつか、一人前になって、お嫁さんを貰う時。そのとき…… 僕の隣には君がいて欲しいんだ! だから…… 一緒にきて欲しい」

60 雫「私…… 料理下手だよ?」

61 ヒロシ「知ってる」

62 雫「洗濯だって…… この間、お父さんのYシャツをアイロンかけてて焦がしちゃったし……」

63 ヒロシ「それも聞いたよ」

64 雫「それに、私ってめんどくさい女だよ! 今だって、ヒロシが私に別れ話をするつもりなんだー! って勝手に思い込んで…… それで……」

65 ヒロシ「もう、君を不安にさせないように頑張るよ」

66 雫「他にも……」

67 ヒロシ「雫っ!」
SE:抱きしめる音が表現できればベスト

 

68 雫「あっ……」

69 ヒロシ「料理が苦手なところも、不器用で洗濯も失敗しちゃうところも。やきもち焼きな所も寂しがりやな所も、全部、ぜんぶ雫が好きなんだ! 雫じゃなきゃダメなんだ! だから…… 一緒に行こう。楽しい思いでも、辛い思い出も全部君と一緒がいい」

70 雫「私も…… ヒロシと一緒がいい…… 一緒にいくぅ…… ふえーん」

71 ヒロシ「……ょ、よっしゃああああああああああ!!!! 楽しい思い出、これからいっぱい作っていこう! これからもよろしく! 雫!」

72 雫「……うん!」

 

 © 2016 堂家 紳士

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