【♂1 ♀1】探偵アイドル

   

//背景:マンション・部屋の前

主人公
「まったく。あいつはまた事務所にも来ないで……。おーいトオル、入るぞ~」

//背景:マンション・室内

トオル
「すー……すー……」

主人公
「おわっ、こいつ寝てやがる。おい、トオル、起きろよ。起きろって」

トオル
「ふわぁぁ……んー? おや? 助手じゃないか……いったいどうしたんだい?」

主人公
「どうしたんだい? じゃねぇよまったく。お前、またレッスンサボっただろう。トレーナーさんカンカンだったぞ」

トオル
「こんな暑い中運動なんてしたら倒れてしまうよ。もし売れっ子の僕が倒れたりしたら、君たちの事務所にとっても有益とは言えないだろう?」

主人公
「また屁理屈をこねやがって……せめて、チームメイトに連絡ぐらいしろよ。理香たち、心配してたぞ?」

トオル
「……! べ、別に誰も心配してほしいなんて言ってないさ」

主人公
「お前なぁ、そうやって意地ばっか張ってると、そのうち誰も心配してくれなくなっちまうぞ」

トオル
「ほっといてくれたまえ!」

主人公
「……」

トオル
「……すまない。でもほっといてくれ。僕は人と関わるのはあまり得意じゃないんだ。そ、それよりも! いつものやつ、あるんだろうね?」

主人公
「はいはい。これだろ? ったく。ケーキなんてコンビニのやつでいいだろうが」

トオル
「バカなっ! ケーキは瀬戸屋のものに決まっているだろう! それより、早くっ! 早く渡したまえ!」

主人公
「おわっ!? こいつひったくりやがった」

トオル
「はぐはぐはぐ……」

主人公
「ったく……お前、礼の一つぐらい言ってもいいんじゃないのか? この暑い中、わざわざ並んで買ってきたんだぞ」

トオル
「ふむ。ほへへふははふ!」

主人公
「バカ野郎! 口の中に入ったまましゃべるんじゃねぇ」

トオル
「……ごくん。ば、バカとはなにかね失礼な! 僕は君なんかとは比べ物にならない天才で……」

主人公
「あーはいはい。そりゃ何度も聞いたっての」

主人公
「まったく、しょうがねぇ奴だな。慌てて食うからクリームで汚れてるじゃねぇか。ほら、こっち向け」

トオル
「んーっ! ぱぁっ。うむ、ご苦労」

主人公
「……なんか介護でもしてる気がしてきた」

トオル
「ふふ、感謝したまえよ、君は人気アイドルである僕のお世話をさせてもらっているんだからね」

主人公
「こんなことがしたくて、プロデューサーになったんじゃないんだがなぁ……はぁ、転職考えようかな」

トオル
「それなら、本格的に僕の助手になるかい? もちろん、君なら大歓迎だよ」

主人公
「やめとくぜ。これまで以上に働かされそうな気がする」

トオル
「それは残念。それで、今日はどうして僕のところに来たんだい? さすがに、レッスンを休んだ文句を言うためだけに来たわけじゃないんだろ?」

主人公
「っと、そうだそうだ。お前宛に手紙が来ててな」

トオル
「手紙……?」

主人公
「差出人も無いし、どうしていいか事務の子が困ってたからな。俺が代わりに持ってきたんだよ」

トオル
「……ふーん」

主人公
「まぁ、中に何か入ってる感じでもないから危険は無いと思うが……っておい。なんだよその目」

トオル
「べっつにぃ~? 君が誰と仲良くしようと僕には関係のない事だけどね。職場内での色事はやめておいたほうがいいと思うよ」

主人公
「ばっ! そんなんじゃねぇよ。俺はただ、お前の担当だから……」

トオル
「ふん。別にどうでもいいさ……それより、これが届いたのはいつなんだい?」

主人公
「あー……、今朝だって言ってたぜ。なんだ? 心当たりがあるのか?」

トオル
「ふむ……まだわからないが、僕の予想が正しいとすると……」

トオル
「……やっぱり」

主人公
「なんだよ。お前だけで納得してんなよ。俺にも見せろって」

トオル
「君が見て理解できるとも思えないけど。どうぞお好きに」

主人公
「ふむふむ……って、なんじゃこりゃ?」

トオル
「何って、見ての通りだよ」

主人公
「本日、戌の刻。スタープロダクションにて、乙女の涙をいただきます?」

トオル
「ようするに、これは僕に対する予告状……いや、挑戦状だ」

主人公
「でも、スタープロダクションってうちの事務所だろ。乙女の涙ってなんの事だ?」

トオル
「おそらく、何かの比喩だろうね。そんな高価なものがあの事務所にあるとは思えないけど」

主人公
「それに、お前さっき、この手紙の中身を知ってるような口ぶりだったよな? なにか思い当たるふしでもあったのか?」

トオル
「ああ、今朝これとおんなじ内容のメールが僕のパソコンに届いたからね。おそらく、何かしらの関係はあると思っていたんだよ。まさかまったく同じ内容だとは思わなかったけど」

主人公
「なるほどな。そういうことか。それで、どうする? 戌の刻っていったら、もうそんなに時間はねぇぞ」

トオル
「どうする? 決まっているじゃないか。予告状を受けて黙っている探偵などいないよ。そのためにわざわざレッスンを休んで、先ほどまで寝ていたのだからね」

主人公
「おまっ! そういう事なら早く言えよ」

トオル
「それぐらい察したまえよ。君は僕の助手なんだから。ほら、そんな事より早く事務所に向かおうじゃないか。ふっふっふ、だれに挑戦しようとしているのか、きちんと分からせてあげないとね」

//背景:マンション・部屋の前

主人公
「ま、待て、鍵! 家の鍵!」

トオル
「そんなもの放っておきたまえ。時間は有限。事件は待ってくれないよ!」

主人公
「それに、お前まだパジャマだぞ!」

トオル
「なっ!? そ、それを先に言いたまえー!」

 © 2016 堂家 紳士

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