【♂1 ♀1】 或る時のとある男女の会話

   

男「あ、どうも」

女「あ……こんにちわ」

男「こんな所で会うなんて奇遇ですね」

女「ええ、本当に。こんな所で会うなんて……」

男「やっぱり……その、あれですか?」

女「えぇ。あなたも?」

男「そうなんですよ! 聞いてくれますか!?」

女「えぇ……まぁ、時間はあるので」

男「はっはっは。たしかにそうですね。時間はたっぷりある。いや、無いのかな?」

女「そんなことどっちでもいいじゃないですか。ほら、話してくださいよ」

男「私には、妻とかわいい2人の娘がいます」

女「あら、幸せな家庭ですね。羨ましい」

男「えぇ、まぁ。娘達は中学校に上がって……最近では、もうパパと一緒にお風呂入らない~! って言われます……悲しい事に……」

女「えぇ……それは、普通じゃないんですか? っていうか、むしろ遅いほうだと思いますよ」

男「そうなんですか?」

女「えぇ。私なんて小学校の低学年かな……の頃から入ってませんよ」

男「低学年から……お父さんはきっと悲しかったでしょうね」

女「どうでしょう? まぁ、遅い子もいるみたいですけど……私の場合、その……」

男「ん?」

女「胸が……」

男「あー。なるほどなるほど。おっきいですもんね」

女「じーっと見るのはやめてもらえますか? お金取りますよ」

男「すいません。魅力的だったもので」

女「お金を取るっていうのは冗談ですけど……必要ないし。男の人って、大きい胸好きですよね」

男「もちろん!」

女「……うわぁ」

男「その表情やめてもらっていいですか? ご自分で振った話題ですよね」

女「失礼。とにかく、その……私はこれのせいで色々と嫌な目にあっているので、あまり見ないでもらえるとありがたいです」

男「わかりました。善処します」

女「……」

男「無言でボタンを閉めるなんて……信用ありませんね」

女「えぇ。これまでの会話を踏まえた上での貴方への正当な評価です」

男「そうですか。残念です」

女「ところで……」

男「え?」

女「ところで……続きはいいんですか?」

男「胸の事ですか?」

女「違います!」

男「失敬。ジョークです」

女「笑えませんね」

男「私の話の続き……ですね……」

女「そうですけど、急にシリアスになるのはやめてください。今ひとつあなたのノリが分かりません」

男「妻にもよく貴方の気持ちが分からない! と言われる。ミステリアスな男なのが自慢です」

女「それは自慢になるのでしょうか……」

男「なりませんか?」

女「どうでもいいです」

男「そうですか……」

女「それで、本当に話の続きはいいんですか?」

男「続けますよ?」

女「そうですか」

男「あれあれ? リアクション薄くないですか?」

女「慣れただけです」

男「そうですか……」

女「だから、早く本題……」

男「そんな順風満帆な私の人生に陰りが見え始めたのは、二年前でした……」

女「……はぁ」

男「当時、私は会社を経営しておりました。都内でも一等地にオフィスを構え、従業員を次々と増やし、自分で言うのもなんですが、経営の才能がありました」

女「そうですか」

男「えぇ、ですから、私の下で働けた従業員達はきっと幸せだったと思います」

女「自慢ですか?」

男「自慢です」

女「そんなこと……」

男「とにかく、飛ぶ鳥を落とす勢い……いや、飛ぶドラゴンを溶岩にたたき落とす勢いだった私の会社は、突然傾くことになります」

女「わざわざ言い換えるほど、そこは重要だったんでしょうか……あ、いやいいです。続きをどうぞ」

男「信用して、金の管理を任せていた部下の……林! あの野郎! 会社の金を持ち逃げしやがって!!」

女「落ち着いてください」

男「すいません。取り乱しまして……とにかく、林という男が会社の金を持ち逃げしまして、それが悪い事に方々の取引先への支払いを行う前日……本来入っていたはずの毎月の支払金が払えず、会社の金が無くなったことは全ての取引先の会社に知られることになりました」

女「あらら、それはご愁傷様です」

男「……他人っぽくて冷たい言い方ですね」

女「他人ですから」

男「そうですね」

女「でも、借りればいいんじゃないんですか? そんなに順風満帆だったのなら、お金を借りて支払いをすれば、また稼げるのでは?」

男「それが、駄目なんです。会社経営というのは水物でしてね。たった一度支払いが滞ったという、それだけの事でもう信頼は地に落ちてしまうのです」

女「なるほど……それで……」

男「えぇ、それからはもう、借金取りに追われる日々です。妻と娘を借金取りから守るために実家に帰して、もう1年ほど連絡もとれていません」

女「そうですか。それはご苦労されたんですね」

男「そうなんです。苦労したんです。ところで、貴方は?」

女「え?」

男「貴方も、話したい事があるんじゃないんですか?」

女「いえ、別に」

男「またまたぁ。そんな事いって、本当は話したいんでしょう?」

女「全然。そんなことありませんけど」

男「……不公平です」

女「えっ?」

男「僕だけ恥ずかしい話しをしたみたいで不公平なんで、言ってください」

女「嫌です」

男「……やだやだやだ! 話してくれなきゃや~だ~!」

女「子供ですか」

男「男はいつまで経っても少年なんです」

女「そうですか。良かったですね」

男「扱いの雑さに、絶望してしまいそうです」

女「もうしてるじゃないですか」

男「たしかに」

女「じゃなければ、こんなところにいませんよね」

男「いえ、私がこうする事によって、未来へと希望を繋げているんです。金銭的なあれを」

女「そうですか。ちなみに、私のは対して面白い話ではなく、ただ……」

男「あ、いや。いいです」

女「えっ?」

男「無理に言わせようとするなんて、男らしくないと思いました。最後ぐらい男らしくありたい」

女「いや、そんなのいいから聞いてくださいよ」

男「あれ? 聞いてほしいんですか?」

女「……はい」

男「仕方ありませんねぇ……」

女「私の場合は、ただ、好きな男に捨て……」

男「お先ですっ! また!」

女「えっ!? ちょ……」

SE:高い所から川に人が飛び込む音

女「最後までわけわからない人でしたね……。でも、たしかに、また会えればいいですね。……来世で。さて……私も行きましょうか」

女「さようなら」

SE:高い所から川に人が飛び込む音

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